どんなに弱いチームでも3割は勝つとは、「プロ野球においては、どんなに弱いチームでも勝率は3割を上回る」ということを示した格言である。
概要
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「パワプロクンポケット11」のキャラクター、神条紫杏のセリフが元。サクセス開始1年目、新規参入球団ナマーズのオーナーを務める紫杏が、ライバル球団のホッパーズとの開幕戦で初勝利したあとに発した言葉である。サクセスモード開始数分後に目にする文章であるため、多くのプレイヤーの印象に残っているのではないだろうか。
「3割は勝つ」ことの特殊さを、他のスポーツと比較してみよう。サッカーJリーグのJ1では、2013年の大分トリニータが年間で2勝しかできず(24敗8分)、勝率.077という記録を残しているほか、年間の勝率が1割台というチームも散見される。アメフトのNFLでは、2008年のデトロイト・ライオンズと2017年のクリーブランド・ブラウンズが1年を通して1勝もできなかった(0勝16敗)。バスケットボールのNBAでは、毎年のように勝率2割台のチームが複数誕生し、数年に一度は最下位チームの勝率が1割台まで落ち込むこともある。個人スポーツではいうまでもないだろう。テニス、ボクシング、相撲、将棋やeスポーツ…「無敗のチャンピオン」が誕生する競技の裏では、一度も勝てずにプロを引退する選手だっているのだ。
NPB以外との比較もしてみよう。NPB2軍や独立リーグでは勝率が3割を下回ることは不思議ではない。大学野球では東京大学が94連敗を喫するなど、1度も勝てない年が複数年続く、なんてことも珍しくはない。
それらのファンに比べたら、プロ野球はいくぶんか恵まれていると言える。勝率3割ということは、「だいたい3試合に1試合は勝てるはず」なのだ。最下位のチームが首位のチームと意外といい勝負をすることだってある。他のスポーツと比較すると、力はまだ拮抗している、と言える。
このようになる要因はいくつか考えられる。
競技性ゆえに、年間で100試合以上も試合を開催可能な野球であるが、このような競技は他に例が少ない。試合数が少なければ、チームの調子次第では一方的な展開となる場合もある(33-4、21-9)。試合数が多くなることで、チームの調子の波というブレを少なくなる。
- ドラフト会議の存在
アマチュアで好成績を残した選手が、成績ごとに各球団に割り振られる。契約が自由なスポーツと比べれば、戦力均衡化に一役買っていることは間違いない。もし最下位チームが首位のチームに勝てなくても、ブービーのチームにならばそこそこ勝てるのである。
先発投手の出来によってゲームの勝敗は大きく変わってくる。いい投手が投げればスコアボードに0が並ぶし、ダメな投手だったら大量に得点を取られる。最下位チームのエースと首位チームで一番実力がない投手がマッチすれば、弱い方のチームが勝つことだって十分にありうるし、ときにはエースが大炎上することもある。いわゆる「捨て試合」が発生しやすく、その分下位のチームでも勝利を拾いやすいといえる。
他のチーム競技、サッカーやバスケットボールなら「エースが一人いれば試合を支配できる」ような場合も珍しくないが、野球に関してはそうとは限らない。先述のようにエースが炎上する場合もあるし、自責点0で完投し、1打点を記録しても負けることだってある。全打席でホームランを打っても勝てるかどうかは最後まで分からないのだ。実力のある選手を大量に集めても、綻びがあればあっという間に負けてしまう。逆に言えば、その分だけ弱いチームにもチャンスがあるのである。
プロ野球は親会社の宣伝としての側面が強く、極端な負けが続くと会社全体の経営にも悪影響を及ぼす。このため、上記の要因もあって毎年ファイティングポーズを取ることが求められる。プロリーグでありながら勝率3割切りも珍しくないMLB球団とは、この経営母体の違いで差が生まれている。もっとも、勝率が3割を割りそうな状態が続いたチームの大半は身売りされ、同時期に親会社も経営危機を迎えていたので、悲惨な状態になる前に親会社の刷新でテコ入れが入っているとも言える。
加えて、球団を会社の顔にできるほど安定している親会社は大企業に限られ、近年では極一部の例外を除き経営体力は横一線となっている。財政力にあまり差がないことが戦力均衡に繋がっていると言えよう。
- 戦力の移動が少ない点
プロ野球ではトレード・FA移籍共に低調で、余程のことがない限り1年を同一球団で過ごす。シーズン半ばに大勢が決したとしても力のある選手が居なくなる事態にはならないので、上位球団が来年以降を見据えた実験的なオーダーを組み始める9月以降は必然的に勝てる試合も増えていく。
NPBにおける実例
チーム名 | 年 | 勝利 | 敗北 | 引分 | 勝率 | リーグ | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
東京巨人軍 | 1936春夏 | 2 | 5 | 0 | .286 | - | リーグ戦ではないため参考記録 |
大東京軍 | 1936春夏 | 0 | 13 | 1 | .000 | - | 同上 |
大東京軍 | 1936秋 | 5 | 21 | 2 | .192 | - | 同上 |
後楽園イーグルス | 1937春 | 12 | 44 | 0 | .214 | - | リーグ戦における最低記録 |
名古屋軍 | 1937秋 | 13 | 33 | 3 | .283 | - | |
ライオン軍 | 1938春 | 9 | 25 | 0 | .257 | - | |
南海軍 | 1938秋 | 11 | 26 | 3 | .297 | - | |
金鯱軍 | 1938秋 | 11 | 29 | 0 | .275 | - | |
南海軍 | 1940 | 28 | 71 | 6 | .283 | - | |
ライオン軍 | 1940 | 24 | 76 | 4 | .240 | - | |
朝日軍 | 1941 | 25 | 59 | 1 | .298 | - | |
大和軍 | 1942 | 27 | 68 | 10 | .284 | - | |
広島カープ | 1950 | 41 | 96 | 1 | .299 | セ | 球団創設初年度 |
松竹ロビンス | 1952 | 34 | 84 | 2 | .288 | セ | シーズン終了後に大洋ホエールズと合併 |
近鉄パールス | 1952 | 30 | 78 | 0 | .278 | パ | |
洋松ロビンス | 1954 | 32 | 96 | 2 | .250 | セ | シーズン終了後に松竹が球団経営から撤退 |
大洋ホエールズ | 1955 | 31 | 99 | 0 | .238 | セ | セ・リーグ最多敗戦数記録(99敗) |
近鉄パールス | 1958 | 29 | 97 | 4 | .238 | パ | 引き分けは0.5勝0.5敗で換算。現在の基準での勝率は.230 |
近鉄バファロー | 1961 | 36 | 103 | 1 | .261 | パ | NPB最多敗戦数記録(103敗)。引き分けは0.5勝0.5敗で換算。現在での基準の勝率は.259 |
ヤクルトアトムズ | 1970 | 33 | 92 | 5 | .264 | パ | この年に16連敗を記録 |
東北楽天ゴールデンイーグルス | 2005 | 38 | 97 | 1 | .281 | パ | 球団創設初年度 |
半数以上が黎明期である戦前の1リーグ時代に記録されたものとなり、また2リーグ制時代の9チーム中7チームがドラフト制導入以前のものである。そもそもドラフト制度がこのような不均衡をなくすために導入されたものであることから、現在における勝率と比較することは適当ではないだろう。
よって、ドラフト導入後の1966年~2022年終了時におけるNPBにおける勝率3割未満のチームは1970年のヤクルトアトムズと2005年の東北楽天ゴールデンイーグルスの2チームのみであると言える。57年でたった2回しか達成されていない[1]という驚異的な数字であり、全チーム中の割合にすると2/684=0.29%である。さらに、これ以外のチームが記録していないということは、
- 黒い霧事件の中心となり、名誉も信頼も何もかもをなくした70年代前半の西鉄ライオンズ(1971年:.311)
- 開幕12連敗を記録し史上最速でシーズンを終了させた1979年の西武ライオンズ(最終勝率.381)
- プロ野球ワーストとなる20年連続Bクラスを記録した南海→ダイエーホークス(1990年:.325、1993年:.360)
- あまりの弱さとダメさが災いしドラフト候補から直々に「阪神に行きたくない10ヶ条」を発表されたり、たけし軍団に負けたり、大物助っ人が「神のお告げ」で7試合で辞めたりするなどの伝説が今なお語り継がれる暗黒時代の阪神タイガース(1987年:.331、1995年:.354、1991年:.369)
- 防御率1位/2位の投手を持ちながら両方が負け越した年の翌年にプロ野球ワーストチーム防御率5.95を記録し1-29でダイエーに負けた年の翌年に対ダイエーで4勝23敗を記録したその年のオフに半分が解体された末期のオリックス・ブルーウェーブ(2002年:.365、2003年:.353、2004年:.374)
- 弱さに関連した伝説が多すぎて書き記すのには余白が狭すぎる、近代野球における最低最悪の暗黒時代と言って間違いないであろう、TBS横浜ベイスターズ(2003:.324、2010:336、2008:.338、2012:.351、2011:.353、2009:.354、2002:.363)
- 開幕から絶対零度級に打線が冷えまくり、5月終了時点でチーム打率が1割台というありえない数字を記録した2017年の千葉ロッテマリーンズ(最終勝率.383)
- に隠れてシーズン初めは目立っていなかったものの、ただでさえ薄い戦力層からけが人が離脱しまくり揶揄抜きで2軍戦力で戦い負けまくり96敗を記録しあのベイスターズすら勝率で下回った2017年の東京ヤクルトスワローズ(最終勝率.319)
- 三浦大輔新監督が就任したものの、いきなり開幕6連敗、その直後4月に10連敗を記録しこの記事ができるきっかけにもなった2021年の横浜DeNAベイスターズ(最終勝率.425)
- 開幕9連敗→1勝→6連敗で1勝15敗という目を疑うような成績を記録した2022年の阪神タイガース(最終勝率.489)
- 2ケタ本塁打達成者皆無の歴史的貧打で3度の月間3割切りを記録し、AVにも余りの弱さを嘆かれた2024年の埼玉西武ライオンズ(最終勝率.350)
…といった、印象としては当然記録してもおかしくないような錚々たる弱小球団ですら、なんだかんだで勝率3割の壁は超えてしまったということを意味する。勝率3割の壁というものがいかに大きく、たやすく乗り越えられないものなのかが分かっていただけただろうか。
ちなみに、143試合制において43勝100敗は勝率.301となる。引き分けも考慮すると、「今年は100敗間違いないな」という発言は「今年は勝率3割未満だな」という意味とほぼ同じとなる。これがいかに実現困難であるのかは上記に示したとおりである。100敗をナメてはいけないのである。
ところで、パワポケ11の作中では初年度のナマーズは「最終的にダントツ最下位に終わる」とのみ書かれており、勝率が3割を超えたかどうかは不明である。モデルとなった2005年の楽天イーグルスが勝率3割を超えられなかったことを考えると、「どんなに弱いチームでも3割は勝つ(ただし新規参入球団は除く)」とするべきであり、神条紫杏の発言に疑問が残る。無能
関連動画
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関連項目
脚注
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