サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦とは、アメリカ海軍が運用している揚陸艦である。
概要
2006年から運用が開始され2017年までに10隻が就役し更に3隻が建造される予定である。
建造に至るまで
そもそも『揚陸艦』は当初、上陸用舟艇を大型化した『戦車揚陸艦(LST)』に代表されるように艦自らが上陸する海浜に乗り上げて兵士やAFVを上陸させる方式が主流だったが上陸後に海浜を離脱しやすいことも想定して船底を平面にしたがこの構造は外洋航行時に安定性を欠く構造だったことから乗艦者には不評であったことに加え、上陸時に攻撃にあうと艦ごと上陸部隊が全滅するリスクが大きかった。
この欠点を改善するため『上陸用舟艇を船体の格納庫=ドックに複数搭載』、『ドックに海水を導いて上陸用舟艇を自力発進させる』、『上陸部隊を分散上陸させて反撃時の被害を軽減する』3つの特徴を持って生まれたのが『ドック型揚陸艦』である。
アメリカ海軍は1943年から『ドック型揚陸艦』の運用を開始し、戦後に登場した『強襲揚陸艦』と組み合わせた『両用即応グループ(ARG)』を編成して世界各地の紛争で海兵隊を迅速に展開させてきた。
これに伴いドック型揚陸艦の規模も最初期の『アシュランド級』が全長140m弱、満載排水量8000t弱程度だったのに対し冷戦末期に運用が開始された『ホイットビー・アイランド級』では全長185m、満載排水量16500t超と規模が拡大した。
そして21世紀を迎えたアメリカ海軍の新世代ドック型揚陸艦として登場したのが本級である。
船体構造
全長208m、満載排水量25880tと『ホイットビー・アイランド級』を越えた本級の外観は正面と後面から見ると艦上構造物が船体と一体化しつつも台形状をしている。これはステルス性を考慮した設計の結果である。
そして艦橋と格納庫の屋根には一本づつ立方体状の尖塔が聳えているがこれは『先進型閉囲マスト/センサー=AEM/S』と呼ばれるマストでレーダーを装備したマストを樹脂製カバーで覆うことでステルス性と海上航行による波浪や強風などから防護して電子機器の劣化を軽減することを狙ったものである。
しかし『AEM/S』方式はコストパフォーマンスの観点からは悪かったことから12番艦からは通常型マストに変更が行われている。
機関は巡航用+高速航行用のディーゼルエンジンを組み合わせたCOCAD方式を採用し最大22㏏、航続距離は18㏏で8000海里となる。
能力
記事名にもあるが本級は『輸送揚陸艦』と正式に分類されている。
これは兵員や装備品に関連した物資=弾薬、燃料、各種消耗品を輸送・揚陸することを主任務とした兵站向けの揚陸艦であることを意味しているが艦内の車両甲板は3段構えで車両群の輸送も重視され、艦尾ドックは大型上陸用舟艇なら1隻、LCACなら2隻、AAV7装軌式水陸両用装甲車なら14両を搭載できる。
これは同時期に計画されたアメリカ級強襲揚陸艦が2つの新鋭機、F-35B+V-22の配備を見据えて航空機運用能力を重視した結果、艦尾ドックの廃止=上陸用舟艇+装軌式水陸両用装甲車の運用が不可になった事を受けての代替である。
但し、本級でも航空機運用能力は軽視されておらず、何気にアメリカ海軍史上建造当初からヘリコプター格納庫を備えたドック型揚陸艦でもある。
飛行甲板には大型ヘリスポットⅹ2(甲板中心線上。V-22、CH-53用)、中型・小型ヘリスポットⅹ4(両舷側に2か所。UH-60、AH-1etc)が配置されている。
なお、自衛兵装として21連装RAM艦対空ミサイル発射機+水上近接戦闘用30㎜機関砲1門のセットを艦上構造物の前後に備えているが計画段階ではESSM艦対空ミサイル用にMK.41VLS16セルを艦橋前に装備する予定だったが予算の都合で後日装備扱いになっている。
乗員は直接に艦を動かす海軍兵士380人、海兵隊員770人の組み合わせとなる。
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