ランドプリンス(Land Prince)とは、1969年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牡馬。
「花の47年組」のクラシックでロングエース・タイテエムと「三強」を形成した皐月賞馬にして、「サラ系」最後のクラシックホース[1]。
概要
父*テスコボーイ、母ニユウパワー、母父*ヒンドスタンという血統。
父はキタノカチドキ、トウショウボーイ、テスコガビー、サクラユタカオーなどを輩出し、日本競馬にスピード革命をもたらした大種牡馬。ランドプリンスはその初年度産駒の1頭である。
母は40戦6勝、阪神牝馬特別で2年連続2着の実績がある。ランドプリンスが初仔。
母父は五冠馬シンザンなど13頭の八大競走勝ち馬を輩出した60年代の大種牡馬。
いとこに1967年の桜花賞馬シーエースがいる。
6代母に、オーストラリアから輸入された血統不詳の牝馬ミラを持つため、ランドプリンスは純正のサラブレッドとは認められない、いわゆる「サラブレッド系種」である。ミラの牝系は初代ダービー馬ワカタカや、ランドプリンスの1歳上の二冠馬ヒカルイマイなど数多の活躍馬を出した名牝系だったが、その子孫は総じてこの「サラ系」の烙印のために繁殖としては不遇の扱いを受けることになった。
1969年3月8日、門別町の高山新一牧場で誕生。オーナーの木村善一は所有馬のランドエースが1969年の京都記念(秋)を勝ったことでか1968年産の所有馬から「ランド」の冠名を使い始め、後にはランドヒリュウやランドパワーを所有している。
クラシックのライバルであったロングエース・タイテエムがどちらも大型馬だったのに対し、ランドプリンスは430kg台の小柄な馬であった。
※この記事では馬齢表記は当時のもの(数え年、現表記+1歳)を使用します。
大地の王子
デビュー~弥生賞
桜花賞馬シーエースや同じ木村オーナーのランドエースを管理した、栗東・高橋直厩舎に入厩。厩舎所属でランドエースの主戦も務めたデビュー5年目の川端義雄を鞍上に、1971年9月4日、札幌・ダート1000mの新馬戦でデビュー。1番人気ヤマイシオーを半馬身下してデビュー勝ちを飾る。以後、引退まで一貫して川端騎手が騎乗した。
しかしこの後勝ち味に遅く、10月の芝1200mの3歳オープンから野菊賞(連闘)、銀杏特別(中1週)、京都3歳ステークス(中9日)、ひいらぎ賞(中17日)とハイペースで出走を重ねるが、6着、3着、2着、3着、4着。3歳シーズンは6戦1勝とパッとしない戦績で終わった。
しかし明けて4歳となると、年明けの呉竹賞(200万下)で2勝目を挙げると、中10日のジュニヤーカップ(400万下)、中2週の4歳オープン、中1週のさざんか賞(オープン)と怒濤の4連勝を飾る。使いすぎでは? ただ呉竹賞(11頭立て)以外の3戦は全て6頭立ての少頭数、相手関係も小粒だったので、この時点ではランドプリンスの評価は決して高くなかった。
その評価が変わったのは3月の京成杯。この年は前年末からの馬インフルエンザの影響で東京と中山がしばらく開催できなくなったため日程が例年からズレまくり、直撃を食らった関東馬は目立った有力馬もいなかった。というわけでこの年は阪神3歳Sを8馬身差で圧勝したヒデハヤテが関西総大将=クラシック大本命となっていた。そのヒデハヤテが皐月賞を目指して東上初戦に選んだのがこの京成杯。ランドプリンスは7頭立て6番人気という低評価だったが、関東勢を蹴散らして評判通りに快勝したヒデハヤテの2着に食い下がったのである。
これで一躍クラシック候補として評価を高めたランドプリンスは、続いて弥生賞へ……向かうはずが、今度は厩務員ストライキで延期。仕方ないので翌週の4歳オープンに出走したのだが、ここでは後のクラシックでの最大のライバルと初顔合わせとなった。3戦無敗で東上してきた1番人気ロングエースと、未勝利から4連勝中の関東勢・3番人気イシノヒカルである。レースは出遅れから強引に先行したロングエースに振り切られて2馬身差の2着に敗れる。
続く弥生賞も、先行したロングエースに追い込み届かず2馬身差で2着。ヒデハヤテはスプリングS後に故障で離脱したが、新たにロングエースという強敵が立ちはだかることになった。
1972年皐月賞・東京優駿
というわけで迎えた皐月賞。ヒデハヤテが消えたことで、1番人気は5戦無敗のロングエース。2番人気にはスプリングSでヒデハヤテを下した「貴公子」タイテエムが名乗りを挙げ、ランドプリンスはこの2頭と「関西三強」と呼ばれることになった。とはいえ実際のところはロングエースとタイテエムが単勝2倍台で人気を分け合い、ランドプリンスは少し離れた7.2倍の3番人気(ちなみに4番人気はイシノヒカル)。ロングエースに過去2戦どちらも完敗していたので、勝負付けは済んだと思われたのだろう。しかし往々にして本番はそうはいかないものである。
大外枠のロングエースがやや掛かり気味に先行したのに対し、末脚に賭けるランドプリンスはじっと馬群の中、インの好位に息を潜める。そのまま経済コースを通って徐々に前に進出するランドプリンス。「ロングエースとタイテエムはどちらも大型馬、4角で外に膨れて内が空く」とみた川端騎手の読み通り、直線で2頭は外に膨れて伸びあぐねる。ランドプリンスと川端騎手は狙い通りに内に大きく開いた進路から、残り200m過ぎで一気に加速。あっという間にロングエースを薙ぎ払い、大外追い込んできたイシノヒカルを突き放し、鮮やかに突き抜けてゴール板を駆け抜けた。
川端騎手はサラ系重賞2勝目がクラシック制覇。高橋師はシーエースの桜花賞に続いて八大競走2勝目。木村オーナーはもちろん八大競走初制覇であった。
続いて6月の東京・芝1600mの4歳オープンをスガノホマレのレコード勝ちの2着としたあと、ランドプリンスは7月9日、「七夕ダービー」となった東京優駿へと乗りこんだ。ここではタイテエムが評価を下げ、ロングエースと人気を分け合っての2番人気。6枠20番と外目の枠を引いたランドプリンスと川端騎手は、タイテエムをマークしながら中団につけ、3コーナーからタイテエムが早めに進出するとそれを追って進出開始。直線で早め先頭に立ったタイテエムに外から襲いかかったが、そこに内から伸びてきたのがロングエース! 300mにわたって「三強」の熾烈なデッドヒートとなったが、タイテエムは差し切ったものの、ロングエースにアタマ差競り負けて2着に敗れた。
その後
秋は神戸新聞杯、京都新聞杯から菊花賞という当時の関西王道ローテを進んだが、神戸新聞杯はタイテエムとの熾烈なマッチレースに半馬身競り負けて2着。京都新聞杯もタイテエムの4着に敗れ、菊花賞ではタイテエムに次ぐ2番人気に支持されたものの、タイテエムを真後ろでマークしていたホームストレッチで躓いてしまい後退、立て直して早め進出でタイテエムを捕まえにかかったが、大外からイシノヒカルに薙ぎ払われて4着に終わった。
明けて5歳はマイラーズカップから天皇賞(春)に向かったものの、マイラーズカップはタイテエムの5着、天皇賞(春)は13着に撃沈。このレースのあと、故障のためランドプリンスはレースに復帰することなくターフを去った。通算21戦6勝。
引退後は日高の日西牧場で種牡馬入り。「サラ系」の烙印を持ちながらも、初年度はロングエース(51頭)に負けぬ43頭の牝馬を集めたが、受胎率がさっぱりで、産まれた産駒は14頭。以後は種付け数が激減してしまい、種牡馬としてはほぼ何も結果を残せないまま1983年に用途変更となった。
種牡馬引退後の消息は具体的には不明だが、やまさき拓味『優駿たちの蹄跡』5巻収録の「アイフルの憂い」によると、どうやら引退名馬繋養制度の対象となって功労馬として余生を送り、繋養先の牧場で亡くなったそうである。具体的な繋養先や没日は不詳。
彼以後の「サラ系」は1982年にヒカリデユールが年度代表馬に輝き、1984年にはキョウワサンダーがエリザベス女王杯を勝利したが、以降は淘汰、あるいはサラブレッドに「昇格」したことで消えていき、血統不詳によるサラ系は現代では居なくなった。現在ではアラ系の血を含む「サラ系」が辛うじて数頭存在を確認できるだけで、それもほぼ消滅を待つばかりとなっている。
古馬戦線を席巻して「花の47年組」と讃えられた1972年クラシック世代において、クラシックの激闘でダービー馬ロングエースとともに燃え尽きた、最後の「サラ系」クラシック勝ち馬ランドプリンス。あのダービーの「三強」の死闘は、もう少し語られてもいいんじゃないかと思う。
血統表
*テスコボーイ 1963 黒鹿毛 |
Princely Gift 1951 鹿毛 |
Nasrullah | Nearco |
Mumtaz Begum | |||
Blue Gem | Blue Peter | ||
Sparkle | |||
Suncourt 1952 黒鹿毛 |
Hyperion | Gainsborough | |
Selene | |||
Inquisition | Dastur | ||
Jury | |||
サラ系 ニユウパワー 1962 鹿毛 |
*ヒンドスタン 1946 黒鹿毛 |
Bois Roussel | Vatout |
Plucky Liege | |||
Sonibai | Solario | ||
Udaipur | |||
サラ系 ムールドカール 1947 鹿毛 |
トキノチカラ | *トウルヌソル | |
星谷 | |||
サラ系 安俊 |
月友 | ||
サラ系 竜玉 |
クロス:Gainsborough 4×5×5(12.60%)、Solario 5×4(9.38%)、Pharos=Fairway 5×5(9.38%)、Blandford 5×5(6.25%)
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関連項目
脚注
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