中村文則(なかむら ふみのり)とは、日本の小説家。
概要
1977年愛知県生まれ。本名そのままっぽい筆名だが、本名とは異なるペンネームである。
福島大学卒業後、フリーターをしながら投稿生活を続け、2002年に「銃」で第34回新潮新人賞を受賞しデビュー。同作で第128回芥川賞候補となる。2004年『遮光』で第26回野間文芸新人賞を受賞。2005年、「土の中の子供」で第133回芥川賞を受賞する。
初期はいかにもという感じの陰鬱で重たい純文学を書いていた[1]が、2009年に刊行した犯罪小説風の長編『掏摸』が翌年に第4回大江健三郎賞を受賞。『The Thief』のタイトルで英訳される[2]と海外で高い評価を集める。以降、犯罪小説風のプロットやミステリー的な仕掛けを駆使した、純文学とミステリーを合体したような作風にシフト。特に海外ではノワール作家として非常に高い評価を受けており、『掏摸』『悪と仮面のルール』の2作の英訳版によって、ノワール小説に貢献した作家に与えられるDavid L. Goodis Awardを2014年に受賞。作品は15ヶ国語に訳され、世界各国で翻訳出版されている。
デビュー当初は商業的にもほとんど注目されておらず、芥川賞を獲っても地味な存在のままだったが[3]、ミステリー路線に転換してから人気が高まり、現在はかなりの売れっ子作家の部類に入る。2014年には『去年の冬、きみと別れ』で、2016年には『教団X』で本屋大賞にもノミネートされた。2016年、『私の消滅』で第26回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2024年、『列』で第77回野間文芸賞を受賞。
作品に文庫解説をつけない(初期はついている作品もあるが)代わりに、あとがきで短めの自作解説をすることが多い。初めて読むなら、出世作の『掏摸』や、薄くて読みやすい『去年の冬、きみと別れ』あたりから入るのがオススメ。
漫画家の久世番子は幼稚園から高校まで一緒だったという幼なじみで、対談もしている
。また又吉直樹が熱心に推している作家のひとりで、2人でトークイベントなどもしており、又吉は『何もかも憂鬱な夜に』に解説を書いている。
受賞・候補歴
新潮新人賞
大江健三郎賞
織田作之助賞
David L. Goodis Award(アメリカ)
- ★第4回受賞。 ※作品ではなく作家に与えられる賞。
- 『去年の冬、きみと別れ』…第11回10位。
- 『教団X』…第13回9位。
川端康成文学賞
Bunkamuraドゥマゴ文学賞
野間文芸賞
著作リスト
小説
- 銃 (2003年、新潮社→2006年、新潮文庫→2012年、河出文庫)
- 遮光 (2004年、新潮社→2010年、新潮文庫)
- 土の中の子供 (2005年、新潮社→2008年、新潮文庫)
- 悪意の手記 (2005年、新潮社→2013年、新潮文庫)
- 最後の命 (2007年、講談社→2010年、講談社文庫)
- 何もかも憂鬱な夜に (2009年、集英社→2012年、集英社文庫)
- 世界の果て (2009年、文藝春秋→2013年、文春文庫)
- 掏摸 (2009年、河出書房新社→2013年、河出文庫)
- 悪と仮面のルール (2010年、講談社→2013年、講談社文庫)
- 王国 (2011年、河出書房新社→2015年、河出文庫)
- 迷宮 (2012年、新潮社→2015年、新潮文庫)
- 惑いの森 ~50ストーリーズ~ (2012年、イースト・プレス)
→ 惑いの森 (2018年、文春文庫)
- 去年の冬、きみと別れ (2013年、幻冬舎→2016年、幻冬舎文庫)
- A (2014年、河出書房新社→2017年、河出文庫)
- 教団X (2014年、集英社→2017年、集英社文庫)
- あなたが消えた夜に (2015年、毎日新聞出版→2018年、毎日文庫)
- 私の消滅 (2016年、文藝春秋→2019年、文春文庫)
- R帝国 (2017年、中央公論新社→2020年、中公文庫)
- その先の道に消える (2018年、朝日新聞出版→2021年、朝日文庫)
- 逃亡者 (2020年、幻冬舎→2022年、幻冬舎文庫)
- カード師 (2021年、朝日新聞出版→2023年、朝日文庫)
- 列 (2023年、講談社)
エッセイ・対談
- 自由思考 (2019年、河出書房新社→2024年、河出文庫)
- 自由対談 (2022年、河出書房新社)
映画化
英訳
- The Thief (2012年) - 『掏摸』
- Evil and the Mask (2013年) - 『悪と仮面のルール』
- Last Winter, We Parted (2014年) - 『去年の冬、きみと別れ』
- The Gun (2016年) - 『銃』
- The Kingdom (2016年) - 『王国』
- The Boy in the Earth (2017年) - 『土の中の子供』
- Cult X (2018年) - 『教団X』
関連動画
関連リンク
関連項目
脚注
- *千野帽子が評していわく「中村作品は、じつは、「まだ文学を読み慣れていない中学生が『これが文学だ』と感じる題材」に満ちている。これでもかと盛っている。ぜんぶ載せだ。」
とのこと。 - *大江健三郎賞は賞金などはない代わりに、受賞作を英語・フランス語・ドイツ語のいずれかで翻訳し海外で刊行することが正賞だった。
- *たとえば大森望は『文学賞メッタ斬り!』シリーズでの芥川賞・直木賞予想で、「土の中の子供」の第133回芥川賞受賞という結果を受けて「こういう思いきり地味な小説に光を当てるのも芥川賞の役目」「考えうる限り最も地味な結果」と評している。同じ『文学賞メッタ斬り!』で何かと中村を腐していた豊崎由美をはじめ、10年後に海外でも評価される売れっ子作家になっているとは、このときはほとんど誰も予想していなかったと思われる。